△供犠



“殺さなければならなかった。”


そうしなければ自らが死んでしまうからだ。
小さな殺意が降り積もり、不当の扱いであると叫ぶにはあまりにも傷を負いすぎた。
一つ、言葉を吐き出すごとに犬歯はめり込み、血が噴き出し、酷く苛まれている。
もういくばくかの余地もなくなっていた。その時は来た。

“殺さなければならない”

“何故”と殺意を降らせる主が問う。

世界は美しいというのに。何故、その地を血で汚そうとするのだ。
背を向けたままそう口々に言った。殺害を成した者に安住の地は無いのだと諭す。
目を瞑った世界は清浄である。だがもうそれも終わりだ。
不意にその影を見る。振り返ってしまう。そうして理由を失った。
奇跡は寡黙であり、目を反らすことで成り立っている。それを誰もが知っているはずであった。

“異端である”

ここで両側の手が離され、怯える目とかち合う。
“何故怯えられなければならない”。声は既に獣の唸りに変わり果てていた。
問いを内包し、何故、こんなにも自己を否定され、傷を与えられなければならないのかと憤った。
頼りない光を持って彼らは言う。

“輪は閉じていなければならない“。

それは、全ての大いなる幸福の為に。

瞬間!

喉が閉じる!異端に対する投石が始まる!多数の殺害の意思もない敬虔な手がやってくる!
恐ろしいものは無くさなければならない!
奔流する良心のなかで思う。“何故死ななくてはならない!”


“殺さなければならない。”


そうしなければ生きられないからだ。明暗は分けなければならない。
もう一つの死によって、生存は完成する。




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あとがき



よっしゃよっしゃ、これでようやく宮田と異界について話せる。
条件が揃ったところでここから宮田編のもっと深いところに入ります。

ちゃんと書けるといいなぁ、ドロドロ。