運命を司る神が居たならば、きっとこんな声をしている。
それは、忽然として、感情を伺わせずに、絶対覆らない事実を告げる。



どこへ行くともわからない。泡と水に巻かれて体を一定に保てないまま、流されていく。 天井だか側面だかの壁をスタンドの拳で叩いて砕き、出来た凹みに掴まる事はできたが、それも長くは持たずに、 狭い筒の中の終わる事のない急流に揉まれて体力を失っていく。息も続かない。

這い上がらなくてはならない。

男は思った。落ちたマンホールからは大分過ぎてしまっただろうが、他の出口を見つけて、流れのなかから出なくてはならない。 それを見つける為に、瞑っていた目を無理やり開く。しかし、増水して氾濫した川のように茶色い泥水だ。周りも真っ暗で視界はとれない。 闇雲に手を伸ばすと、どこかの湾曲した壁に触れる。 自分が上だと思うところに腕をギリギリまで伸ばしてみたが、天井に触れても手が水面に出ることはなかった。 この筒の中全てが水で一杯になっている。それに気が付くと、絶望感が胸に満ちた。 パイプがどれくらい続いているのかはわからないが、運良く出口や、上の空間に余裕があって、息継ぎをできるところに出れたとしても、そこに“盾”の少女はもう居ない。 マンホールをこじ開けた目の前には、走っている車のタイヤがあって蓋と地面の間で押しつぶされたり、 地下で発生した未知のウイルスを吸い込んだりしたら、身を守れない。

希望を抱いた分、残ったものは苦い。あっという間に流水は体温を奪っていき、掴まっていた手から感触が無くなって外れる。 再びもみくちゃになりながら、男は、流されていく。 上も下もない。三半規管は回転と遠心力で掻き混ぜられ、自分がどうなっているかも曖昧だ。 息がもたない。死のカウントダウンが始まっている。レクイエムがやってくる。

そして、それを、男は見た。

「オマエが真実に到達スル事はケシテ無イ」

真っ暗な視界に光のような姿でもって、見下ろしていた。

「黙れ」

残り少ない酸素を吐く事になろうとも、言わねば男の気が済まなかった。

「オマエはドコにも辿リ着ク事は無イ」

「黙れ!」

一喝は、大きな泡になって泥水を掻き回し消え、後は水と砂を同時に噛んだ。 瞬きをしない黄金のスタンドの姿。それは幻だ。例え、スタンド使いがこの冷たい水の中にもう一人居たとしても、見る事はない。 これは、男の心が作り出した、男を苛み続ける、レクイエムの幻影。 繰り返しの死のなかで生まれた幾つかの人格の一つ。男に従わず、儘ならず、知ったような顔で、何度も状況だけを囁き続ける存在。

「答エも結果も得ラレナイ、そういう事ダ、“ディアボロ”」

空気は完全にどこかにいってしまった。“ディアボロ”は、代りに水を多く飲み込んでしまう。 胃や肺が重く、冷たくなって、酸素を失った脳は、じりじり焼き付きながら意識を保てずに活動を停止していく。 誰も居ない。何もない。パイプは終わらず、水嵩が減ることもなかった。“ディアボロ”は死んだ。 前回から、約40時間弱、長い間隔は開いたが、レクイエムの中ではひとつの死でしかない。





**










「 !」



「 、 !   !   !」



「…… ……」



次に意識を取り戻した時、ディアボロの近くでは声がしていた。誰かが喚いている。 経験として良くある、不法侵入者として撃ち殺されるだとか、ヒステリーに巻き込まれたりだとかの死因かもしれない。 けれど、そんな事はどうでもよかった。前回のようなチャンスはもう無い。 気力が沸かず、ディアボロは目を閉じたまま、周りに関心を持たずにその場にぐったりとただ座り込んでいた。 この後は再び、止まる事の無い死の連続が待ち構えていると思うと、以前と同じだと開き直る事もできない。 以前は“盾”のスタンドを知らなかった。でも今は知ってしまっている。 あれさえあればイタリアに行けたかもしれない事実を知ってしまっている。 打撃も銃撃も毒ですら防いで見せたものを知っていて、それでこれから打撃や銃撃や毒で数えきれないほど死ねというのが、既に心持ちを変えていた。 きっと次の死因で死ぬ時に“盾”さえあれば死にはしないのに、と、自然と思うだろう。 それは悔恨になり、意識を雁字搦めにする。一つ一つの死因に丁寧にも余計に精神に疲労を残す。 後悔と、どうしようもない現実との摩擦を予期すると体中から力が抜けた。
銃だろうが、鉄パイプだろうが、どうでもいい、さっさとしろ。と、滅多にもない自暴自棄にもなる。


「ベネ!」


だが、しっかりと聞こえてきた子供の声に、ディアボロは目を見開いた。 項垂れって下を向いていた頭に、両手が添えられている。気が付かなかったがさっき喚いていただろうその声にも聞き覚えがあった。 混乱する自分に、囁きかけるようにレクイエムの幻影が寄り添った。

「最初ノ運命ガ不履行ダ」

感情を滲ませないその声は、ディアボロの脳内で一瞬の内に行われた脳細胞の電気信号であり、 ディアボロ自身の思考が導き出した法則だが、それが改めて言葉にして己に知らしめてくる。

「オマエが真実に到達スル事はケシテ無イ。

 オマエは、コノ少女二出会ッタという“真実”を
 “壁”のなかデ見ル事は出来テモ、それに到達スル事は無イ。
 “盾”を失イ、死ヲ迎エタ瞬間、“真実”はマヤカシになり、彼女ト過ゴシタ時間は、ゼロにナル」

そして、まだ履行していない死因に還る。40時間は消え去り。この路地裏へ。じわじわとその現象を理解した。 コトリ、と、横に、引力によってディアボロの頭上を目指していた鉢植えが、少女のスタンドによって無傷で置かれる。

「答エも結果も得ラレナイ。

 今、彼女はオマエを知ラナイ。

 死ネば戻ル。死の運命を正しく履行するマデ」

ディアボロは離れていこうとする少女の腕を掴み、引き寄せて腕の中に閉じ込めた。
熱をいだいて抑えきれない感情が沸き上がってきた。
どこで失敗しようが死のうが何度もここに帰ってくる。

つまり、イタリアで“矢”を得るまで、何度でも。

笑いだしてしまった男を腕の中怯えた表情で少女は見上げた。
それでも伺うだけで逃げようともしない。この子供はなかなか他人を見捨てる事ができない。そういう性格をしている。 スタンドは己の闘争心でコントロールするものだから、性格は小生意気で、決めた意見はなかなか譲らないが、正義とやらにこだわる性質。

知っている。この、わたしの“盾”だ。

「助けて欲しい。君の力が必要だ」

いつの間にかレクイエムの幻影は消えていた。

でも、ディアボロは気にしない。
今度こそ上手くやってみせる。その自信がディアボロにはあった。


**


そして、繰り返しは始まった。

襲ってくる災難も同じなのか確かめる為に、路地裏から出る時は、すぐに道には出ずに待った。 すると、ブレーキに靴を挟んで暴走した車が入り口に突っ込んでくる。ただ、今回は“盾”がその場に居ないため、 車も無事では済まずにそのまま細い路地裏には入れず、ぶち当たって大破した。

弾け飛んだガラスだけ音を立てて飛んできて、見えない壁に刺さっては落ちた。 運転手は席で項垂れていたが、その後は知らない。圧し潰れて半分になったボンネットに足をかけると、 “呪い”の事を説明されてはいたとはいえ、目の前で起こった事故に呆然としていたを抱き上げ、そのまま上を歩いて道に出た。

雹が降って来た。アパートに向かう。
予定通りに起こる災難の内、煩わしい災難は躱し終わっていた。それで真新しい災難に当たる事もあったが、問題はない。 新聞紙は拾って丸めて、憎悪を込めてゴミ箱に投げ入れておいた。は怪しげに男を伺う。 アパートのガス栓は、わざと何もしなかった。少なくともこれで、一晩、時間は稼げるわけだ。

その間に、には最終的にはイタリアに向かいたい意思も伝えた。
母親への伝言も今の内なら残せるし、説得できるかもしれなかった。 でも、やはり、飛行機を使うというのがどうにも飲み込めない。次の日は前と同じように少女と街の中を歩き通す。 は、飛行機の代りの車を母親が用意してくれるだろうから、母親の帰りを待つと言い、ディアボロはそれに頷いた。 失敗してもやり直せる。そこに死の苦痛があっても精神的には救われた。

ホテルではなく、アパートに帰って二日目の夜を越した。だが、母親は姿を現さなかった。 開いている窓からカラスが入って来て、部屋を一周していったが、特に何もない。 は「カラスで死ぬってどういう事?つっつかれるの?」と言っていたので、 「目を引きずり出されて見えなくなったまま、窓から落っこちるのかもしれない」と言うと怯えていた。発想が怖いと言う。

しかし、2回目の挑戦はそこであけっなく終わってしまった。
翌朝、引っ越しの予定があった隣の部屋の荷物の運び入れが始まり、それぞれの身支度の最中、 操作を誤って窓を突き破ってきたクレーン車がディアボロに当たったのだ。 少女のスタンドは傍に居たが、急に横なぎに吹っ飛んだ男について行けず、ディアボロは部屋の壁にぶち当たって死んだ。

この時間、アパートの部屋に在住しているのは良くない。 マンホールに落ちて、結局アパートには辿り着けなかったが、結局アパートにやってこれてもこれで死んでいたのかもしれない。 学習して、目を覚ます。次はもっと上手くやれる。



**



3度目。荷物の運び入れが始まる前に家を出た。

三日目にして疲労が溜まっているのか、少女がふらふらとしていたので、最初から抱き上げて移動をした。 そういえば、少女はディアボロの家族関係について今回は看破しなかった。ただ、初回や前回よりかは“呪い”事態に対する疑いが濃い。 やってくる災難が分かっているため、反応が希薄になるのが目につくらしい。ドッキリに巻き込まれ、望まないサプライズを見るような冷めた目をしている。 下らない事だが、そのまま転倒して、少女が手元から離れ、ガラス片で頸動脈を切って死んだ。気を引き締めなければならない。
死にながら、耳元で少女が喚いているのがうるさかった。



**



4度目。いちいちスタンドについてやレクイエムについて少女に説明するのが面倒になってきた。 何も説明せずに無理やり空港に連れて行こうとすると、当たり前だが逃げられる。特大の雹が頭にぶち当たり死んだ。
今までで、一番短い。



**



5度目。記憶の混同が見られる。
説明したはずの事を尋ねられたと思ったが、今回は、まだ、じっくり死ぬ死に方を紹介していない。 今回、公園でパンを食べながら、なんの話をしたかと言えば、の母親がどんなに破天荒かの話だった。 今だに面会はないが、レクイエムを目の当たりにしても微笑んで見せるようなら、話の通り、本当に頭の可笑しい女だろうというのは分かる。 それは都合がいいが、そんな母親に疑問も持たずに慕っている子供は、やっぱり異様に見えた。

アレルギーのショック症状を起こして血圧が下がり、喉と体が腫れて窒息、死亡した。原因物質に心当たり無し。いきなり発症した。 アナフィラキシーの語源はana(反抗)とphylaxis(防御)。体を守る免疫の暴走。 本来は体を守る働きをする免疫を“盾”は妨がず、も自分の体には“害”になっていない原因物質を阻まなかったのではないかと思われた。 検証する必要がある。



**



そして、今日もは、頭に掌をくっつけにやってくる。

そもそもだ。

ディアボロは、と言う少女に出会った時、その能力を見て、この子供がどんなに我儘で傲慢かと考えた。 自動防御の能力なんて、もし、産まれた頃から持っていたのなら最悪だし、最近身につけたのならきっと鼻持ちならない。 自分が攻撃されないのだと思い込んだ人間の振る舞いは、組織に入ったばかりの下っ端の起こす厄介事によく表れる。 ギャングの名前を振りかざして一般人を脅すなんて可愛い方だ。好き勝手やっといて上に泣きつくなんていうのもよくある。 それを繰り返して、自分は組織無くしては生きられないのだと理解してくれればいいのだが、 逆にもっと傲慢に、上に手を伸ばす者共がいる。

力も、賄賂にする金もない自分たちが、どうして今まで刑務所に入らず、自由にしてられたのか。 それが誰の御蔭なのかまるで忘れてしまった振る舞いだ。 そういう輩は、恥知らずにも勘違いしている。お前たちを、世間や法律、警察から守る組織という力は、けして、お前たちの力ではない。 真の力の持ち主に逆らうというのなら、その力はお前たちを骨まで焼き尽くす。そうして、勘違いを正し、群衆は規律を高めなければならない。 ずっとそうやって、スタンド使いという爆弾を含んだギャング集団を運用してきたし、そうでなければ運用できなかったという自負があった。

だが、この“盾”のスタンドを持つ少女はどうか?

少女の力は最初から正真正銘少女自身のものだ。
誰に罰せられる事もなく“壁”は少女個人を守り続ける。
ディアボロは思う。

―――不気味だ。この事実は、実に、とても不気味なのだ。

ヘマをした下っ端など「もうしません」と言えなくなるまで痛めつければなんとかなる。禁を破った裏切者には死を与えればいい。 でも、攻撃を受けないこの少女はどうだ? この子供が、悪い事をした時、その母親は子供をどう叱ればいい? 口で言ってきかせるのか?怖い顔で怒ったり、理論詰めで教え込む? それで二度としないというのなら、 幼児よりかは話が通じるはずの連中を束ねた組織運営も楽だろうにと心底思う。 そして、何より、この少女は、危険について、“正しさ”について、どうやって学ぶのか、というところが疑問だ。

無痛症の子供の話、というのを、本だったか何かでディアボロは聞いた事がある。
真偽は定かではないものの、無痛症の子供が乳歯の生え変わりを両親に祝われた日の晩に、残り全ての歯を力任せに自ら抜いてしまったという話だ。 痛みを理解できず、歯が抜けた事を両親が喜んだから、その行為を“正しい”と思ってしまって、子供はそうしたのだという。 結果を見た両親が悲鳴を上げたり、悲しんだりしている所を見て、してはならない事をしてしまったと口を血だらけにした子供はようやく学ぶ。

しかし、自動防御のスタンドを持った子供は、目に見える傷は負わないだろう。
親は危険の爪痕に悲鳴を上げる事もなく、傷を負わないということは、本人も痛みの経験が少なくなる。 筋肉痛にはなるというのだから、神経は正常なのだろうが、どんなに小さな外傷でもスタンドによって守られてしまう。 傷もなく、痛みもないのだから、危機感は生まれない。高い所から落ちた痛みの経験の積み重ねで、人間は、高所に恐怖を持つようになるというのなら、 この子供は、地面の道を歩くのも、ビルの屋上の淵ギリギリを歩くのにも、何の違いも見いだせないのではないか?

また、他人の傷にも鈍感になるはずだ。
他人の心身の傷に、それは何?と、好奇心で指を突っ込みかねない。 ―――傷と痛みを理解しても、指どころか喜々として凶器で抉る人種をディアボロは何人か知っているが、ああいうのは、本当に人として度し難い ―――そして、そのまま成長するごとに、自分を傷つけるものはないのだと理解するだろう。 自分とは違って、脆い回りの人間を、とても自分と同じ存在だとは思えず、孤独や孤高になる。スタンドを持って生まれた者の宿命ともいえる思考パターン。 傲慢で不遜で、残酷な人間にもなりやすいはずだ。

だから、ディアボロは最初から警戒を持ってに接した。
“災難”がやってきて、少女はディアボロを励ましたり、そのまま同行したりしたが、いつ、その残酷な面が現れるか見張った。 今は、自分にはスタンドが居ると高を括って、暇つぶしか興味かなにかの気軽さで親切をしているんだとしても、 このレクイエムのやっかいさに気が付いて、自分の日常が乱され、人生にすら影響を及ぼしかねないと知った時、 「やっぱりやーめた」と逃げ去ってもおかしくない。そうなった時、有効な手段が今のディアボロには乏しかった。

拙かろうと、何とかしてこの子供の興味をひいて、約束事として取り付けたかった。 周りの人間とは自分は違うと悟った子供に高い自尊心が宿っているのなら、自分の過去の意思を貶めるような約束破りには、抵抗ができるだろうと思い、 報酬の話をする。しかし、予想以上に煮え切らず、その時、睡眠欲求に襲われていたディアボロはもう駄目だ、とあの時は思った。 打てる手段がない。子供はやはり予想通りの性格のようだ。このまま自分は死ぬのだろう。何度も何度も死ぬのだろう。

しかし、結果は記憶の通り。

何を思ったのか少女が了承を返してきた。
苦味か痺れたような舌を億劫に動かしながら「縛っていいよ」と言う。

とても理解しがたい。

不気味だった。ディアボロが少女に対して戸惑い始めたのはここからだ。
報酬はわかんないから後で考えてもいいか?と困ったように言われても、言葉がない。 差し出された布で手を縛っても、少女は、色々耐えるような顔をしつつも何も言わない。 ディアボロは内心、混乱した、が、限界だった。少女の出した条件に頷くと、シーツに倒れた。 思考全部がうっとおしく、思考が宇宙人な子供の事など考えたくもなかった。

そうして、無事、朝を迎える。
ガス漏れで窒息しかけた事など些末な事だ。子供は寝ている間も逃げなかった。 ディアボロが昏睡してしまえばどうにでも出来ただろうに、同じように窓に噛り付いて必死に息をしている所からすると、呑気に隣で寝ていたらしい。 報酬につられてそうしたのかと思って、後で考えると言っていた内容を何度訊いても、 呆れる事に、そういえば考えてなかったという素振りが丸わかりで首を横に振る。 ますます子供の不気味さに拍車をかけた。

それから行動を共にしてようやくわかったのは、この少女が“害”に鈍いという事だった。
そして、少なくとも、“傷は痛い”と分かっている。

子供は、他人に気を使いもするし、どうやら幸いにして、周りの人間の脆さについて気にした事もないらしい。 不思議な事に少女は、高所の恐怖すら、どこか理解もしている。 車がやってくれば驚くし、毒のある生き物には顔を顰める。“壁”に守られて生きて来た癖に、見た目、普通の子供のように振る舞う。 生物として人間に残っている原始的な生存本能だと言えばそれまでだが、あまりに違和感がない。

それから、相手は子供だと油断しすぎたところもあるが、ディアボロの言動からその正体を惜しい所まで見てとった。 実際は、ギャングで、幹部などではなく、ボスの立場だったが、少女は、子供の抱き上げ方を知らない人間は、血の縁が薄いとも言った。 つまり、血の縁が濃い人間とも、薄い人間とも、傍に居た事があるのだ。その歳で。 一度目の出会いの最後には、少女の稀有な生活の実態も知れた。 世界を放浪する母親について歩いた少女は、様々な人間と出会って来た事になるのだろう。様々な話を聞いたのだろう。

そして、繰り返しが始まり、ある周回に、ディアボロのなかでその事実がカチリとはまり込んだ。

“盾”があるのに、残酷さに怯える少女は、世界各国という多すぎる教材の賜物だ。 少女は呪いの青いダイヤの話を聞いた。ホラー映画や怪談や恐ろしい噂話を聞いた。 血だらけで真夜中に家にやってくる人間たちの恐怖に震えた顔や、あるいは決意の横顔を見た。 得より損を選ぶ金の斧と銀の斧の話を聞いた。学校で道徳と一般常識を学んだ。路地裏で容赦の要らない相手を知った。 死にそうな人間を発見し、観光客と触れ合い、詐欺師やチンピラや殺し屋と知り合った。

相手の不安を自分の不安として、相手の痛みを自分の痛みとして、教材にし、盾の少女は普通に成れている。 暇を潰すのに観ていたテレビの痛そうな映像特集に喚ける程度には、平凡な感覚を手に入れている。

非平凡な生活を薄めなければ少女はそうはなれなかった。

納得を得たのは、「矢」を目指して、奮闘する最中、その周回。
ようやく帰って来たの母親に、ディアボロが対面を果たした時だった。






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余談


つまり、路地裏=リスポーン地点だったんです。 どうしてこうなってるのかは下画像でぼんやりと説明。 ゼロに戻すっていう能力は分かるけど、色々な死因になる仕組みがレクイエムのよくわからないところ。 無駄無駄ラッシュの時に既に死んでるのなら、無駄無駄ラッシュを永遠ループな気がするし、 麻薬中毒の人に刺されて死んだなら、川から這い上がって来たところから再スタートで、 後は同じ事をループするような気がします。でも、ボスって色んなところに飛ばされて色んな死に方してるみたいなので不思議。 あと、ゼロに戻す、なのに記憶は蓄積なのが辛い。そこがえげつない。恐ろしい。


そして、後半は主人公の話。
主人公は、考えてみるととても変な奴です。 自動防御のスタンドを生まれつき持っていたらどんな人間に成長するか考えてみたんだけど、案外、大人になる前に死ぬような気がする。 書いてても、中盤辺りで、主人公の視点の思考がわからなくて辛かった。 手を縛りたいとか、知らない人に言われたら、変態だと思って、まず逃げるか拒否するか通報するかだと思う普通。ていうかしなきゃ駄目だと思う。 (でも路地裏リスポーンなので、死んだら結局は繰り返す)