マルセイユ、イフ島を望む。
牢獄だった島は二つ目。フランスの罪人は島へと幽閉される決まりでもあるのか。
理由はわからなくもない。けれど、海を見渡して見える島が牢獄であるというのは複雑な心境になる。
かのイフ島にはエドモン・ダンテスが投獄されたという設定の島であり、同様に本当に使用された牢獄でもあった。
無実の罪を着せられ投獄された彼は、隣の独房に投獄されていた神父から学問を学び、神父が病に倒れた時、ある宝のありかを聞く。
神父の遺体と入れ替わり脱獄した彼は宝を得て名前を変え自分を陥れた人々に14年の時を経た復讐を開始する。
サントマルグリット島に収監されていた鉄仮面の男からアイデアを得たアレクサンドル・デュマによる小説である。
輪郭を薄らと空と違えているその姿をカメラに納めていると、ふと、布をしっかりと巻いたディオを見て思った。
アメリカにいるというスタンドをディスクにして取り出す能力者、その人は確か神学生と聞いた。
デュマの書くこの話の舞台はエッフェル塔の出来た19世紀の話であるし…いや、エドモン・ダンテスはもとは善人であった。
「今度のあの島は?」
「イフ島。シャトー・ディフ。無実の罪を着せられて投獄された男が脱獄して復讐する物語の舞台の一つ」
ああ、と言って納得したのでディオは「モンテ・クリスト伯」を存じているらしかった。
知ってからのその後の様子は少し可笑しい。島に渡ることはしないので出発しようと私はバイクへと歩き出したが彼は島を見て立ち止まっている。
首の付け根をしきりに押さえるように触っていた。そこに星の痣があるのを知っている。(よくホテルで上半身裸でいるから)
それを指摘したりするとディオは目を伏せて遠くを思うようにしていた。
首を囲うような傷跡も彼の過去のあったジョースター家との諍い(そう彼は称した)のものであり、
その星もまた、過去の何かを呼び起こすのだろう、と勝手に思っている。
「復讐」
戻って再び島を眺め始めた時、彼はそう呟いて己の腕を掴んでいた。
深い憤懣を含み、かと思えば陶然ともする表情で、ああ、と呻く。
私の前に立ち塞がるものはやはり。
そう言っていたと思う。微かだったため確かかどうかは不明だ。
その後、にべもなく出発。逆巻く夕闇にもう空に星は僅かだった。
【……後に茨のスタンドを私は知る。
彼は牢獄であり、囚人、あるいはクリスト伯であり、そして、フェルナン・モンテゴである……】