神様は恐らく俺のことが嫌いなんじゃないだろうか。
そんな論理も証拠もない感想を抱いてから苦節約15年強、
私こと僕こと俺、某闇医者のように安定しない一人称で自己を周りに知らしめていた現俺はやっと、
その妙な名前に慣れ、今は、桜の咲く高校にて、その名前を探している。
彼は言った。
「俺の両親は普通の人間だよ。名前のセンス以外はね」
全く持ってその通りである。
「お、おー…おり…おり…あ、あった。折原臨也」
“折原臨也”
イザヤとは聖書に登場する預言者の名前から名づけられた名前だそうだが、
なんだか漢字表記にすると結構日本人としてありえそうだから不思議なものだ。
しかし、それならば、後々生まれた双子の妹達の名前も聖書を参考にすればよかったんじゃないだろうかと思うわけだが、
いいのがなかったのだろうか。歳の離れた天真爛漫、もしくは病み病み狂狂といった風な、我が妹達に付けられた名前は、
舞流と九瑠璃という無駄に円形と躍動感を思い起こす音のものだった。
酷く可愛らしいと感じるか、ああ、今風ねぇ、と引きつった笑みを浮かべるか二つに意見が分かれるものだが、俺は、後者に述べたい。
ウチの両親はそれはそれは普通の方たちだった。
ただ名前のセンスだけが変わってただけで。
何が言いたいかというと、けしてDQNと呼ばれる人種ではなかったよ、ってことだ。加えて、懐の広い方達だった。
だから原作の臨也が23にして情報屋なんて「それって社会保険とかどうなってるの?」とか問い詰めたい職業(?)に就いていても、
高校生の双子の女の子二人がなんだか妖しい雰囲気、加えて鏡のように対象的で非論理的な性格になっていたとしても、
それらを容認し、海外でバリバリ働いていたのだろうし、優しくて、本当に懐の広い…
あれ、それって懐が広いというより無関心に近い?
話がずれた。
ともかく、そう、
本題は、神様は恐らく俺のことが嫌いなんじゃないだろうか。ということだ。
何が嬉しくて、物語の黒幕であって、ドミノ倒しの初めの1つを勝手にツンと倒す、恨まれ役に生まれ変わらなければならないのか。
まったくもって、嬉しくない。どうしてそんな奴に生まれ変わったのか。
この疑問は母からオギャーと産まれてから、“僕”という一人称がぴったりな短パンちょい大人しめな少年期を中継して、
この学校に入学するに至るまで悩み続けたものであるが、今やっと答えらしいものがでた。
神様は俺のことが嫌いなんじゃないだろうか仮説。
これだ。
だってそうだろう。けして、あんなウザヤがイザイとか言われるような人にはならないと
決意していた俺は、今、あの来神高校の入学式に参加しているんだから。
どうしてこうなった。
両手を振り上げて蟹股になって踊り狂いたい気分だ。
因みに、私の外見はまんま臨也なので、視覚的には破壊的な滅びの踊りとなることだろう。
あと、それから、どうしてこうなったといっても、某牛乳大好きな少年のように
原因不明な突然変異のように理由を見つけられないわけじゃなかった。
ただ、1つ1つが細かいのだ。
池袋から遠く遠くに離れようと思っていた私の心を知らずに両親が新居を池袋にしてしまった。だとか、
中学の進路相談のときに妙に担任が来神高校をプッシュしてきて、断りきれず、
第三希望くらいならいいか、と進路調査用紙に記入したら、
第一希望の学校の試験に向かう途中で、飛んできた人間にぶつかり、気絶、サクラチル。
第二希望の学校の試験に向かう途中で、飛んできた販売機に道を閉ざされ脱出できずに、サクラチル。
そして、残ったのは来神高校だけ。なんて。
どうしてこうな…
なんだか決定的に原因になっている人物が1人いるような気がしてならない。
まぁ、これだけではない。
今、俺の格好は、短ランであるわけだが。
…。
屈辱的に時代を感じる短ランであるわけだが、これも、断じて俺の趣味ではない。
両親が基本的にいない我が折原家では、現代社会において珍しく近所付き合いがあり、
夕飯時になると近所の叔母ちゃんが玄関先で、
「イザちゃん!今日ウチ、カレーなんだけどねぇ、良かったらこれ妹さんと一緒食べない?」
と、ありがたくも、鍋に入ったカレーを頂くような良好な関係であるが、これが災いをなしたのだ。
この叔母ちゃんには昔、俗にいうヤンキーをしていた息子さん(今は真面目な28歳。お嫁さん募集中)がいるのだが、
俺が来神高校に入学すると聞きつけると、「舐められていじめられたらいけない!」という気を回してくれたらしく、
「入学式にはコレを着ていきな!」と寄越してきたのがこの素晴らしくも短い学ランだった。
着なきゃいいじゃん?
考えてもみてほしい、入学式へ向かう早朝に、息子さんが外でスタンバってると九瑠璃に知らされ、
模範的に着ていたブレザーを泣く泣く脱ぐ少年の気持ちを。腹が冷えるのを感じながら、爆笑する舞流を黙らせつつ、
凄くいい笑顔の息子さんの相手をするこの気苦労を。
そして、インナーにはこれがいい、と、真っ赤なTシャツを着せられ、妹達もなぜか護身用にとナイフを渡してくる。
着実に、
なにかの意志によって、原作を辿らされている。
よって、導き出され確定された答えが、これだ。
「俺は神様に嫌われているらしい」
「どうしたのさ?この晴れの舞台でそんな老い先真っ暗みたいことを言っているのは君くらいなもんだよ?」
あ、そうそう、君に紹介したい奴がいるんだ!すっごく興味深い、まさに驚天動地な身体をしている奴なんだけどね。
もともと小学校が一緒で今朝再会して…
「そして、誰か、この原作という奈落へ俺を引きずり込む、隣の眼鏡を黙らせてくれ。」
「君はまさに唐突不意といった感じだよね。」
にこにこと隣の眼鏡、岸谷新羅は笑ってこちらを見る。
その後、現時点で荒れているというこの来神高校の入学式は、その噂通りに騒がしいもので、
その喧騒にキレた平和島静雄がひと暴れして、あたりは騒然となるのだった。
「アレだよ!アレ!あの跳び箱を持上げて…あ!今投げた彼が紹介したいっていう…」
「とりあえず避難しよう新羅!それはあとでいいから!な!」