臆面もなく、皆平和になればいい。という子だった。
そんなことは無理だろう。と俺が言えば、そんなことはないと、いたって真剣な顔で見返してくる。
自分は、平和な世界から来たのだからと、その瞳が語っている。
それからは武将や忍達の名前を指折り挙げては、夢想を語るのだ。
その夢のなかでは奥州の竜と真田の旦那はお互いに好敵手のまま、協力し、世界を治めるんだとか。
戦ではなく、同盟によって、陣地は拡大されて、そして、天下は一つになるのだと。
そんなのは、無理だ。
だいたい、好敵手なのに、協力って矛盾してんじゃない?と訊けば、
そこには、共通の敵がいてね、と、彼女は苦しげに言う。
俺は意地悪く。共通の敵は同盟に加えてやらないのか?と訊けば、
それこそ、喉を絞るような唸り声をあげて、は考える。
考えて、考えて、果てには、
改心させて同盟に加える?と、
訊いたのはこっちなのに、不安げに、これでいい?と伺うように俺にたずねてくる。知らないよ。
ふぅん?と。一応頷いておく。
それに彼女は満足げに頷いて、ご機嫌に鼻歌を歌いながら、空を眺める。
もともと、そんな妄想はどうでもよかったんだよ。
の話には、いくつもの、矛盾と不可能が、だいぶ着古してほつれた、雑巾にもならないような着物の糸のようにあったけど、
わざわざ突くことじゃない。俺は彼女の話に頷いて、お茶を飲んで、そして、自分の住処に戻ったら、
彼女の話の登場人物の同盟相手の首を取るクナイを磨けばいい。
そして、彼女の語る物語の半分以上の武将達は、もういないのだと、彼女に知らせる必要だって俺にはありはしないのだ。
彼女は大将が与えた箱庭で、ずっと夢を語ればいい。
彼女はただの、客人だ。それこそ、世界規模の。
だからこそ、客人に自分の家のことをとやかく言われると腹が立つ。客人は客間でもてなしを受けているに過ぎないのに、
出された甘い菓子に釣られて、その家が火の車だって構いやしないで、いいところだ、いいところだ、と笑っている。
早く、帰ればいい。平和な自分の家へ。
けれど、同時に思う。
「そしてね、天下統一されたらね、それぞれの名物を交換したりして、鍋パーリィでも開いたりして。」
「パーリィって、竜の旦那の真似?」
「そうそう。」
そうやって、笑ってくれるのなら、
「意味?…集まり?宴会とか祝賀会とかって感じかな?」
「あー、それじゃあ、大分悪い冗談をかましてたんだねぇ、竜の旦那。戦が宴会ねぇ…」
俺が精一杯もてなして、甘い菓子をだしたら、彼女が、いいところだって笑ってくれるのなら、
きっとそこは、いいところなんだって、一瞬でも、勘違いをすることが出来る気がするんだって、
たとえ、
「…そういえば、幸村、最近来ないね?どうしたの?」
「ん〜一応、城主だから、忙しいんだよ。アレでもね。」
「お館様も?」
「そうそう、」
「…佐助は最近よく来るね。」
「ちょっと、なにその目!?俺様だってちゃぁんと忙しいんです!」
そこが朽ちかけたあばら家だろうと。
「……佐助、いつもありがとうね。」
「いえいえ、俺様、優秀な忍ですから、」
客人が帰るまで、客人が笑っていられるように欺くのは、持て成すものの勤めだろうと思う。