*(一つ一つが短いので、全部続けて乗っけてます。↓ずらずらっと)












万人受けする物語のほとんどは、ハッピーエンドであるはすだ。
だから、私の希望は潰えることはない。




デウス X マキーナ








まったく、どうなっているんだ。

私は忌まわしい数秒前をを思いながら、暗闇のなかにいた。
息を吸い込めば、咽るような花の匂いがする。
状況を把握するために手を彷徨わせると、触れたものは柔らかい植物の感触がする。それも大量に私の周りに。
どうやらそれらは、寝ている私の体を包み込むように敷き詰められているらしい。

なんなんだこの状態は。

息を吐くとそのまま吐息が跳ね返り、自分の顔に戻ってくる。自分は狭い箱に詰められているようだ。
敷き詰められた花に、狭い箱。

嫌な予感がする。

閉所、暗所恐怖症を患っていたら発狂しそうなこの状況のなか、ふいに、私が寝ている奥でもぞり、と何かが動く気配がした。
私のほかになにかいるらしい。

その動いたもの(おそらく生き物)のあたり観察していると、真っ暗な闇に光が差し始めた。
軽い掛け声のような「よっ」という声がした。(おそらくその生き物の)

私はあまりの眩しさに目を細め、なんとか光の調節を終えて、呆然とした。

見えた景色は、見知らぬ森の中だった。

上半身を起して、風景を見て、自分の入っていた真っ黒の長細い箱を見る。そこには見覚えのあるマーク。
なんていうことだ。このシチュエーションに覚えがある。

私は頭を抱えたくなった。


今までの苦労が水の泡か!!!


そのまま、現実逃避をして、夢だよ、夢、と、二度寝をきめこみ、ねっころがりたい気分だ。しかし実際はそうも言ってられない。
長い黒い箱の私が入っていた、逆っかわのところにいた生き物、もといとある魚介のあだ名の少年は、箱の正体を知り、








「え゛――!!?何でオレ棺桶に――!!?」と叫んでいた。




ああ、原作だよ。と私は脱力した。


神様はつくづく私をこの世界に縛りたいらしい。








2



叫んだ少年の声を聞き、森の中から姿を現した青年(これまた原作どおり)は、少年の姿を捉えると驚愕し、
泣きそうな顔になりながら、少年に膝をついた。
思わず、といった感じに少年の両肩を掴み、懺悔の音を含んだ声で、

「10代目!」と少年を叫喚した。


そして、肩を掴まれ戸惑う少年に謝罪を繰り返す。
こちらから見えるその顔は、ギュウと目を閉じ、眉を寄せ、ともすれば泣き喚きそうな顔だった。
必死なのはわかるけど、まったく私に気づいてない。すげぇ忠誠心だ。顔がひきつりそうだった。


困った少年が「いや、あの…」と自分の目の前で、許しを待たない謝罪の理由を探そうと、軽く、あたりを見渡した。
そのときだ。やっとさその少年が私の存在に気づいた。
日本人にしては薄い茶色の瞳が、私とかち合う。


どうも、と軽く会釈を返せば、彼はわけも分からず、会釈を仕返す。

いいね。
日本人に染みこんだ作法は。

外国だとそうもいかない。日本人は頭をガクガクさせるのが怖いといわれるからね。
そんなことを考えていると少年につられて、青年も私を捉えた。


青年は悲しみの表情から一転して、私に向かって敵意を向ける。
少年の肩から手を離し、体を翻して、少年を守りながら、「誰だ!!」と叫んだ。その判断まで、一瞬。さすが右腕。
けど、私に気づくまでめちゃくちゃおせぇよ、と言いたい。
いくら感動の再会だからって、紛れ込んだ異物くらいは最初から気づきましょう。
右腕なんでしょう?

私は自分の足を包む白い花を蹴りながら、心のなかで悪態を吐き、適当に答えた。



「それは後でいいよ。今はもっと大事なことがあるんでしょう?」


視線で、未だに私を凝視している少年を示す。確か、5分だっけか?
でも、本当は、入れ替わることなく少年はここにいることになるけれど。原作どおりなら。

しかし、そんなこと青年は知るはずもない。青年は私を怪しむように見ながらも、少年に向き直り、再び、肩を掴んだ。

ぼーと私を見ていた少年が我に返ったようにびくりと揺れ、青年に視線を戻す。


これでやっと話を進めることが出来る。
少年と青年が、10年バズーカーやら、5分しかないやら、話している隣で、
私は足の上に乗った花を退かしつつ、自らのことを考えてみる。





えーと確か、原作の未来編?


恐らく、成長した“獄寺隼人”と14歳の“沢田綱吉”をちらりと見ながら確信する。
うん、やっぱりそうだ。
24の獄寺隼人は眼鏡をかけた男の写真を沢田綱吉に見せながら、この者を5分経って自分の時間に帰ったら消すことを約束させている。 昔、読んだとおりの展開だ。間違いない。

えーと、そのあとの展開はどうなるんだっけ、もう、大分昔の記憶だからなぁ。


えーと、あーと、


あ、そうそう、


この後、24の獄寺隼人と、10年前の獄寺隼人に入れ替わり、ラル・ミルチが現れるんだっけ?
ずいぶんと駆け足な展開だったはず。そこからボンゴレの日本支部へ向かって
14歳の沢田綱吉は未来の自らの立場とリング、匣兵器のことを知っていくんだ。



はっきり言ってメンドクサイ。なんで、私はこの世界にいるんだ。
でも、死にたくないしなぁ。


私は、首にかけていた、チェーンを確認し、腰に巻いたベルトとポケットを確かめる。
大丈夫だ。この時代で身を守るすべは、とりあえずは、ある。

と、安心したところで、獄寺隼人がいた場所でボフン、という小さな爆発が起こった。10年前の獄寺隼人の到着だ。



きっと、この世界の獄寺も、10代目命でめんどくさいんだろうな。








「10代目ぇ…」

バズーカーの爆発に驚いた綱吉の声を聞いたからの発言だろうが、10年後の獄寺と登場直後の台詞が同じで少し、可笑しく思える。
どんだけ10代目大好きなのかと。


獄寺は、綱吉を捉え、パッと表情を喜色に染めた。
綱吉のほうは反対に、自分がなぜ棺桶に入っているか10年後の獄寺に聞きそびれ、ショックを受けている。
テンポいい。さすが原作。と思いながら隠れて笑っていると、獄寺がギラリと私を睨んだ。


あれ、10年前のほうが気づくのはやい。けど睨み方がデジャブだ。やはり彼は極寺隼人なのだなぁ、と感心する。


「てめぇ…なにもんだ、」


しかし、10年経ったほうが口の方はいいらしい。彼は「誰だ!?」だった。
今にもダイナマイトをだしそうな自分の自称右腕に焦った綱吉が、あわあわと私を庇う。


「そ、その子はオレとなぜか一緒に…ココに入ってて、」

と、自分の入っている棺桶を叩く。棺桶、と言えないあたり、まだ事実を受け入れられないようだ。
だが、極寺はそれに気づかなかったようで、

「これなんスか?棺桶みたいスけど?」

と直接名称で言ってしまう。
項垂れた綱吉は、低い掠れた声で「みたいじゃ…ないんだ…」とことのあらすじを語った。


***


ずぅうんと暗い空気を背負って極寺が体育座りをしながら落ち込んでいる。
未来の自分が、自分のボスを守れなかった事実を、ボス自らから聞いて相当ダメージを受けているようだ。

思わず、綱吉と同じように苦笑いをしてしまう。
本当に頭を抱えて座りこみたいのは未来がなくなった綱吉のほうだろうというのに、
本人よりも落ち込んでいる。というか、


「10年後のオレは何やってたんだ!!ちくしょー!!10代目を死なせるなんてオレは右腕失格です!!」

綱吉はその事実を直視しないようにしているのに、容赦ねぇ。


地面をぶったたきながら悔やみ始めた極寺に「誰もまだ死んだとは言ってないから!」と綱吉は必死にツッコミをいれる。
その気はないのだろうが、現実を突きつけてくる極寺に汗がだらだらと流れ、顔色も悪い。

獄寺が右腕として、ボスの気持ちを察するようになる日は果たしてくるのだろうか。
今の時代では過ぎ去っただろう10年を考えてみたくなる。
…うん、多分10年たってもあの崇拝っぷりをどうにかしなきゃ無理そうだ。


「てめぇ!!なにがおかしいんだよ!!」

苦笑いをしていたら、嘆いていた獄寺の標的が私へと向いたらしい。
地面から立ち上がり、ずかずかとこちらへ近付き、私の首元を掴みあげる。
自分の将来を考えて顔を青くしたり、獄寺を励ましてみたりと大忙しだった綱吉は、獄寺の後ろでワタワタとしている。


「10代目の棺桶に一緒に入ってた、だと?いったいてめぇは何もんだ?答えによっちゃあ…」


その手が、隠し持っているダイナマイトへと伸びる。
私は、それでも、苦笑いしかできない。

自分が何者か?そんなの


「さあ?」




知るか。











この時代に来た方法は彼らと同じ。10年バズーカーだ。
けれど、この世界にたどり着いた理由はわからない。

来たくもなかったよ。ツナには逢いたかったけど。



「あ゛ぁ゛?」



チンピラも真っ青なメンチのきりかただった。
後ろにいた綱吉は、「獄寺くん!止めて!」と私を降ろさせ、訊いた。

「さあ?って、あの、…どういうこと?」

私はただ、首を振った。


「え…君はこの時代…えーと、自分からココに入った?」

「違う、気がついたら、ココにいた。」

「……ちょ、ちょっと待ってて!」


今だに私を睨む獄寺を引っ張っていき、二人はこそこそと話合う。こそこそといってもまる聞こえだけど。


「10代目!怪しい奴です!オレが果たしましょうか!?」

「ダメだって!…あの子も、もしかしたら10年前から着たのかも…獄寺君、急に10年バズーカーに当たったって言ってたよね?」

「あ、はい、窓から急に飛んできて…」

「それで巻き込まれたのかも」

「なるほど…いや!10年バズーカーは10年後の自分と入れ替わる代物だったはずッス、ということはアイツの10年後は、棺桶でなにを…」



ハッと獄寺は顔を上げ、こちらに叫ぶ、


「てめぇ!10代目の墓で墓泥棒してやがったのか!!!」

「墓とか言わないでぇ!!」


必死な綱吉の声が響いた。
本当にご苦労様です。


***

その後、叫んだ綱吉の腹がぐるるると鳴り、その場は一気に、緩み、
獄寺は通販で買って持っていた八橋を取り出し、綱吉に捧げた。
あまりのタイミングに顔を赤くしていた綱吉は、「ありがとう」と言いながらもそもそと1つ食べ、
その後、みんなで食べよう、と、笑った。

最初は恐縮していた獄寺も、綱吉の美味しいよ、という勧めからつまみ始め、
私はまだ棺桶にはいったまま、ボーとその様子を見ていると、気づいた綱吉が少し戸惑いながらも、
「君も、良かったら…」と、勧めてくれた。



「10代目!そんな怪しい奴ほっときましょう!!」

まぁ、10代目大好き右腕が黙っているわけがなかったが。

「あ、もともと極寺くんのだもんね、ごめん…」

しゅんとした綱吉は私にも、極寺にも、謝り、獄寺はそんな綱吉の謝罪にふるふると震え、「10代目!」と叫ぶ。

「……おみそれしましたッ!墓泥棒にも心を砕く心持!」

そして、立ち上がり、私に生八橋を渡しながら、「10代目のお気持ちだ!心して食べやがれ!」と大分高圧的に言い放った。
ていうか、また、墓って言ったよ。

私は顔が引きつりながらも、立ちはばかる獄寺を避けて後ろ呆然と座っている綱吉に苦笑い気味に「ありがとう(がんばれ)」と言うと、
綱吉も苦笑いをしながらうん、と頷いた。


八橋はニッキのきいた美味しいこし餡入りだった。











甘いものをとって、ようやくすこし落ち着いたころ、私はやっと棺桶から出て、木の根っこに腰をかけた。

二人は、やっと5分経っても戻れないことに気づき、綱吉は、座り込み、獄寺はイライラとあたりを見渡しながら呟いている

「しかし、ここ…どこなんスカね?」

そういえば、あたりは木しかない。なんで、ここのボンゴレはここに棺桶を置いたんだろ。
二人は10年後の獄寺が残していった鞄を開きながら、話し合いをしている。

私は、原作を思い出しつつ、ココが並盛なのか、それとも並盛じゃないどこかなのか、考えてみる。


もし、並盛だとしても、遊園地や動物園といった施設を有する意外と広い並盛で、しかも10年後なんて、どうなっているか分からない。
違うのだとしても、原作では、これから、ボンゴレの地下施設へと移動し、並盛の神社に繋がる地下周辺に留まるのだが、
具体的な移動時間も分からないため、現在いる場所はどこなのか結局検討もつかない。

移動の途中でラルが水浴びをしていたので、相当、人里離れたところだとは思うのだが。


そう考えていると、二人はちょうど、例の手紙を見つけたらしい。

極寺がみずから考え出したG文字を解読している。




そろそろだな、と私は考えて、ポケットの中身を漁る。
これから現れる者はボンゴレの敵ではない、と分かっていても、“私は”どうなるかわからないのだ。



***


「はじめまして」


現れたのは、マントにすっぽりと体を包み、ゴーグルで目を隠した人物―――ラル・ミルチ。
リングに炎を灯し、マントのなかからスッと、武器のついた左腕を出し、見せ付ける。
そして、殺気を放ちながら言う。


「さようなら」


ナイストゥミートゥー アンド グッバイ なんて。

混乱する綱吉を置いて、まず反応したのは獄寺だった。さすが、原作前からスモーキングボムと言われていた彼だ。
綱吉を庇いながら前に出て、ダイナマイトを敵へと放り投げる。
しかし、ラル・ミルチは地上で吹き上げる爆風を飛び上がって避け、木の枝へと着地する。よくあのマント引っかからないよね。

「逃がすかよ」

そこへ、追い討ちをかけるように、獄寺はロケットのついたダイナマイトをラルを囲むように放つ。
しかし、それは、左手についた武器の炎によって全て分断され、目標の前で爆発することになった。

まったくこちらのことなんか考えてない(二人とも)
私は爆風に飛ばされないように、身を低くして耐え、吹っ飛んでいったツナをはた目に、炎に捉えられた獄寺を確認した。


さて、これからだ。


「やはり、リングを使いこなせないのか…宝のもちぐされだな」

木の上からラルが言った。10年前から来て、当然、なんのことか分からず混乱する二人をよそに、

ラルの視線は炎に囚われ、戦闘不能になった極寺から爆風に飛ばされ地面にふせている綱吉、



そして、私へと移った。



「…お前は誰だ?」

怪訝そうな声だった。


ああ、やっぱり。


ボンゴレ十代目である綱吉と、その右腕だった獄寺のことは写真で見たことがあると、野宿のシーンで言っていた。
今回のこれも、二人と知ったうえの力を試すための戦闘だし、

でも、私は。

ラルは、私を見たまま、左手をあげる。どうするのだろう。私にも攻撃を仕掛けるのだろうか。
私はポケットのリングを握り締めながら、ラルの出方をみる。


が、


「コイツは関係ない」


いつのまにか、ハイパーモードとなった綱吉が私の前に立った。庇われた。
額にオレンジの炎が灯っているのが見える。私はそれを複雑な気持ちで見て、
どうやらターゲットを綱吉に移したらしいラルを見た。



「オレを恨むな、死ね」


そして、流れは私を省いて流れていく。なんだか悔しくなるほど忠実に。











森の間々でほとばしるオレンジの炎を眺めながら、私は木に背中を預けていた。
ラルは私のことなど、もう、頭の隅にだってないだろう。

死ぬ気の炎を額に灯し、飛び回る、“希望”に夢中だ。言ったら「そんなことはない!」と怒るだろうが、

冷静沈着のはずの彼女が、不確定要素である私をほっぽっているのがいい証拠だ。

深い緑色の木々の間で、一際大きな炎が上がる。恐らく、ムカデが食事をしたのだろう。
戦闘は終わった。私はやれやれと、その場へと歩いていく。


***



「及第点だ。殺すのは見送ってやる。」



場面は丁度、ラルが自分の名前を告げるところだった。

獄寺を囲っていた炎は消え、地面でへたっている綱吉へと駆け寄っていく。
私もその場に行こうとしたが、武器を構えたラルがそうしてはくれない。



「お前は誰だ。オレはお前の存在は知らない。いったい何者だ?」



ラルの後ろで二人が私を見る。
私は、なんとも言えない気分になりながら口を開いた。



「こんなことしている場合じゃないじゃないですか?
 二人がここに着てから、大分経ってるし、はやくリングに鎖をつけないと。」

「…!!何を知っている!?」



指輪に炎を灯し、武器へと触れながらラルは叫んだ。私は両手を頭の横に上げる。
後ろの二人も、改めて私に対して警戒を深め、獄寺は綱吉を庇って、ダイナマイトを取り出した。

ツナは、困惑しながらも、その獄寺の腕を掴んで止めている。なんだか嬉しいね。



「いろいろと。けれど、私はボンゴレの敵じゃない。むしろなれない。」


「どういう意味だ?」


私は一度、綱吉をちらりと見てから、ラルへと視線を戻し、言う。


「こういう意味。」


唾を飲み込み、思う。今は簡単だ。


だって、私は悔いてるもの、殺気はなかったとはいえ、バズーカーを避けられなかったなんて。
確定された未来なんて見たくもないから、嫌だったのに。

私は額に炎を灯す。それは沢田綱吉と同じ、オレンジ色の炎だ。




死ぬ気の炎。







「幻術じゃない!?」


死ぬ気の炎をみて3人は当然のごとく驚愕した。

しかし、ラルは一瞬で幻術と叫び、はずしていたゴーグルをつけなおした。
が、考えが否定されたことに、再び、身を震わせた。



そりゃそうだ。私は幻術なんてスキルないもの。骸くんじゃあるまいに。



「幻術じゃないよ。綱吉くん、君ならなんとなく分かるでしょう?」



目を見開いていた綱吉は、おずおずと頷いた。
もっともこの炎に触れ、使うことのできる者、しかも超直感をもっている彼だ。

この炎を灯せるもの、すなわち、

「ボンゴレの血筋なのか?」


「そう。」

詳しく言うと微妙なところだが、今はもたもたしていられないだろう。
私は今だに信じられなそうなラルを促し、二人にマモンチェーンをリングに巻くことを勧めた。




今、敵に見つかったら今後はめちゃくちゃだ。



***

アルコバレーノが皆いなくなったという話のあと、その場から離れるために4人は走り始めた。
おそらくそれぞれの頭のなかには、それぞれの懊悩がひしめきあっていただろう。
私も走りながら考えていた。


このあと、夜に川で休憩をとり、そしてモスカに見つかり、10年後の山本に出会い、基地へと向かう流れなのは覚えている。
事情を説明するのが一番いいのは、基地のなかだが、はたして無事に中に入れるだろうか。

それも悩むが、走っているときの周りの視線の痛いこと痛いこと。
綱吉はアルコバレーノのことについて気にしつつも、自分と同じ炎を持つものが気になるのは当然だし、
獄寺は10代目の立場を危うくしそうな存在に目を光らせている、
ラルは聞いたこともない血の後継者に、いくらゴーグルによって幻術を否定されても疑いが晴れないのだろう。

自分の立場のややこしさに頭が痛くなる思いだった。


できれば、自分の存在は軽く考えておいて欲しいものだ。


本当は自分は居ない立場なのだから。










「お前はここに残れ」



川につき、野宿だということをラルに知らされたあと、獄寺、綱吉は、食べ物を探す為に森へ入った。
私も、続いて入ろうとするとラルが言った。




「オレはお前のことを信じられない。」
いくら死ぬ気の炎を灯すことが出来るからといって、お前のような存在は今まで、聞いたことがない。



「お前は一体何者なんだ。」



川の近くの岩に腰をかけ、私に問いかける。
さて、どうしたものか。
私は服の上から首にかけたチェーンの先を握りしめる。


「今、詳しく話すことはできない。」



今、余計な混乱によって原作の流れを邪魔したくない。
綱吉が持っているリングのうち、綱吉自身が気づいていないランチアに貰ったリングによってモスカにバレ、
そして、その場所で山本と出会う。山本の正しい案内によって基地の中にやっと入れるのだ。

モスカにバレルそのポイント。時間や場所は早くても遅くてもいけない。
もし早くに山本に出会えば、綱吉はもう1つのリングの存在や、
パワーアップしたモスカの存在を知らないままになってしまう。
それが、今後にどんな影響を与えるか分からない。


なるべく私はこの世界を原作のままにしたいのだ。

そうすれば、どんな未来であろうと、きっと納得の出来る終わりになる。
“沢田綱吉”が主人公であり、余計なものがない世界なら、きっと。



「すくなくとも、基地にたどり着いたら、全て話す。」

「…お前が、基地の場所を知るためのスパイではないという証拠は?」

「やつらが出している指令は、ボンゴレを含め、ボンゴレに関わった全ての者の抹消だ。なら私は消される立場だ」

「お前のような存在が周りに知られなかった理由はそこにあるんじゃないのか?」



少しおどろいた。ラルのなかの私は相当な人生を送ってきた人物になっているらしい。
苦笑いしてしまう。


「そうじゃないよ。」

「なにかしらの理由でボンゴレの血を受け継いでいながらも、恩恵を受けず、育ったのではないのか?」

「ボンゴレに捨てられた存在?そしてそれが理由でボンゴレ憎み、やつらに加担していると?」

「そうだ。」

「違うよ。私がボンゴレを憎むはずがない」


私のボンゴレ好きは筋金入りだ。


「でも、こんなの、いくら言ってても疑いは晴れないよね、」


どうしたものか。
ある、という証明よりも、ない、という証明のほうが難しいものなのだ。



「…基地につくまで、お前を拘束させてもらう、というのでどうだ?」

「移動するときはどうする?」

「紐…いや、鎖で繋がせてもらうだけだ。自分で走れ。」


紐ではないのは、炎で焼ききる恐れがあるからだろう。


「分かった」


快諾するのは可笑しかっただろうか。ラルは怪訝そうな表情のまま、鎖を私の手首に巻き、近くの木に繋いだ。
あれ?

「木、につけるの?」

「オレは少し離れる。ここにいろ」

そう言ってどこかに行ってしまうラル。
―――――あ、例の水浴びか。


どこに行くのかはわかったけれど、これ、


「敵に見つかったらどうすればいいんだ…」


もしかして、死ねって言ってる?





敵に見つかることはなく、命の危険に晒されることはなかった。
陽も暮れ始め、焚き火を起し、ラルのとった魚を焼く。

獄寺、綱吉の二人は原作どおり、なにも収穫は無かったらしい。
おまけにおそらく、ラルの水浴びシーンを見てしまったのだろう、二人とも伏し目がちで真っ赤だ。
しかも、私を見ても、気まずそうに目を逸らし更に真っ赤になりながら、頭をぶんぶん、振る。
いったい、何を想像してしまったのか、わかるような気がして、14という歳について生ぬるく考えてみる。
青春、まっさかりだもんね。しょうがないか。

生暖かい目で見ていると、真っ赤な顔の綱吉がなんとかラルの記憶を抑えることに成功したらしく、
「あれ?」と声を漏らした。

「えと、君、魚は?」

「あー…」

私は、焚き火に1つ残ったちょっと焦げ気味の魚を見て、これ私のでいいのかな?と思いながら、背中にまわった手を綱吉に見せた。

「なんで縛られてるの!?」

今、気づいたのか。

「やっぱり墓泥棒だったのか!!果たす!!」

獄寺は私のことが大嫌いだということがわかった。



「墓泥棒?」

そういえばラルは、私のいきさつを詳しくは知らなかったな、と気づいた。

「オレがここに着たときと同じように、…か…棺桶のなかに現れて…」



まだ、現実を直視したくないのか、棺桶のところで目を遠くして綱が言った。
ラルはその話を聞きながら、私を睨む。睨むというか、本当に何者なのか見極めようとしているのだろう。
私はへらり、と笑うくらいしかできない。

「…あのさ、」

「うん?」

言いづらそうに綱吉が私に言い、「ごめん!」と急に謝った。

「え?」

「ずっとごたごたしてて、オレ、自己紹介もしてなかった…君の名前も知らない…」

「沢田綱吉」

「え、」

「私は君の名前、知ってるよ。前にも呼んだでしょう?ごめん、自己紹介してなかったのは私のほう。」

「あ、そういえば…死ぬ気の炎の時に」

「そうそう」

私は笑う。


「私の名前は、“”っていうだよ。」


10

ずいぶんと、私のことで時間を食ってしまって冷や冷やしたけれど、
3人の話は、今のボンゴレの状態、そして敵のマフィア
「ミルフィオーレファミリー」そのボスの名前「白蘭」というところまで、なんとか行き着いた。
なんとなく、これは世界の修正力の表れなのでは、と思う。
絵で描写されたよりも、モスカが近付いてくるまで、確実に時間が長くなっている。


3人が敵が来るということで、顔を強張らせているとき、私は一人そのことでホッとした。
世界は私が思っているよりも頑丈に出来ているらしい。


4人で大きな岩に身を隠し、ズゥンズゥンと足音を響かせながら歩くストゥラオ・モスカをやり過ごす。
綱吉はランチアがくれたリングの力のことを知らない。
よって、マモンチェーンを使用していないため、モスカにバレルことになる。


ラルの言葉と裏腹にこちらにまっすぐ歩み始めたモスカに焦り始める3人。


「お前達ボンゴレリング以外のリングは持っていないな」


ラルの言葉に綱吉がもう1つのリングの存在に気づいた。
だが遅い。
モスカは死ぬ気の炎を用いたビームの発射口をこちらに向けた。


私は、飛び出しそうになる右手を押さえながら、ギリギリまで耐える。
大丈夫だ。原作どおりにきている。

岩も見覚えのあるものだったし、タイミングも合っているはずだ。
なぜなら話は匣兵器の気球で途切れたのだから。


モスカのゴホンの指の先の真っ黒な穴が見える。


冷たい汗が背中を撫でた。大丈夫だ。世界はそんなにやわじゃない。



「鮫衝撃」


私はほかの3人とは違った息を吐いた。



***



「助っ人とーじょーっ」


モスカに背後から斬りかかった10年後の山本が笑った。
大きなモスカの図体と比べると小さな傷だったが、衝撃によってモスカの機能を一時的に止めたらしい。

「こんな奴、相手にするだけ損だ」

予想外の助っ人に、10年前から来た二人はいろいろと驚いただろう。
野球一筋でリボーンを前にしてマフィアゴッコと豪語していた彼の口からモスカのことを聞くことになろうとは。


だが、少し話をすれば山本そのものだったが。


「縮んでねーか? 幻…?妖怪か…?」


10年前の綱吉達をみて、山本は真面目に首をひねったのだった。
モスカから離れたところで、ラルが知っていた基地の場所の情報がガセだと教えた山本は、匣兵器を取り出そうとして、
後ろでなるべくひっそりとしていた私に気がついた。

あれ?と再び首をひねり、


「10年前の…誰だっけ?」

「こいつは巻き込まれただけだ、関係ねぇ」

「は?」

山本が困ったように眉を顰めた。

「関係者以外をアジトにいれるのはできないぜ?」

「違う、コイツは関係者だ。」

ラルが言った。

「どっちなんだ?」

山本は戸惑いぎみで、綱吉に訊いた。

「…は関係者だよ、なぜだかまだ教えてくれないけど、死ぬ気の炎を灯せるんだ」

「…指輪にか?」

「ううん、額に」

山本の鋭い視線が私を捉えた。


11



「悪い、それ、見せてくれねぇか?」

山本は笑顔だったが、その瞳は笑っていない。

私は頷いて、炎を灯す。そして山本の顔をみて苦笑いしてしまった。
もう、山本は瞳だけではなく、敵に対面したような真剣な表情をしていた。

「これは…幻術じゃねぇな。」

「ああ。」
ラルが答えた。
わずかな沈黙が痛かった。

山本は、1つ息をついて、私に向き直り、

「わかった。」

と一言いって、再び匣兵器を取り出した。


***

土砂降りの雨のなかを抜け、基地へと入る。
自然であふれる景色のなか、ぽっかりと口を開いた人工的な雰囲気がなんとも違和感を感じさせる。
地下へと伸びる長い階段をぬけ、エレベーターをで一気にしたに下り、たどり着いたところは、
どこまでも広い空間だった。エレベーターから降り立つと、足音がかつん、とその空間にどこまでも響いていく。

綱吉は思わず叫んだ。

「す…すげー!!ボンゴレってこんなの作れちゃうの!?」

その声は足音の非ではなくワンワンと地下の空間に響いていく。いったいどれだけ広いのだろう。
それを聞いた山本は笑う

「おまえが作らせたんだぜ、ツナ」

自分のことのように得意げに、そして誇らしそうに綱吉の頭を撫でる山本。
それをなんだか直視できなかった。10年来の死んでしまった友人の話を、
まだなにも知らない幼い友人に語って聞かせるというのはいったいどんな気持ちなのだろう。

10年バズーカーとは、もしかしたらすごく切ない武器なのかもしれない。




自分がしたと聞いて信じられない、とショック受けている綱吉と優しく笑う山本を見ていると、
基地の奥に続く道に設けられた光を放つ装置を見つけた、ラルが、アレはなにか、と山本に尋ねた。

ああ、あれは、


「なんとかって物質をさえぎるバリアだそうだ。」


ノントゥリニセッテの。


私は、ラルがそこを通るまえに割り込んで(睨まれた)、そこで立ち止まる。
装置の前で、ラルが私を見る。


「何をしている?」

「いや、」

気にしないで、と言って、ラルが通るのを待ち、そして、


「うっ」

「!」

倒れるラルを受け止める。
両手縛ってあって、やりにくかったけど、ラルの体を支えながらゆっくり下に降ろすことで、なんとか受け止められた。
確か、ココを読んだときに誰か受け止めてって思ってたんだ。頭打たなくて良かった、とホッと一息。


まぁ、これくらいなら、変えても大丈夫のはず…


「ど…どーなってんの!?」

「てめぇなにやりやがった!」


約一名に変な誤解を招いたけど。



「いや、違う、環境の急激な変化ぶ体がショックを起しただけだ。
 ここは彼女達にとって外界とは違うつくりになってるからな」

私からラルを受け取った山本がちらりと私をみて目を細めた。言いたいことはわかる。



「あとで、話すよ。」

「ああ、」


さあ、話さなくてはいけない時がどんどん近付いていく。




12





山本に案内された場所は地下は思えないほど豪華なつくりになっていた。
その部屋に圧倒されながら足を踏み入れると、響く懐かしい声。


「おせえぞ」

綱吉の時代で忽然と姿を消していたリボーンの姿がそこにはあった。



***


そこからひと悶着あり、10年バズーカーの異変から、ボンゴレ狩りの話と移った。
綱吉や獄寺が悲痛な声を上げるのを私は目を瞑りながら聞いていた。
やっぱりこの世界は原作なんだな、と再確認する。
そして、同時に、なぜ、私はここにいるのだろうと疑問がもたげた。



私はここにくるはずがないと思っていた。
そうして思うのは、一度目の理不尽のこと。

きっと、神様は私をこの流れから離したくなのだろう。という自嘲しか浮かばない。


ここ10年来の知人はほとんど消され、そしてそれは山本の父親まで及んだという話をもって、リボーンは口を閉じた。
二人の少年達にはきつ過ぎる現実だ。今日一日でどれだけ、少年達は追い詰められてしまったのだろう。
おそらく、リボーンは少年達の限界を悟ったのだろう。
ショックで下を向いてしまった彼らに、「今日は遅い、もう寝とけ」と言い放った。

だが、

「待てよ」

獄寺が口を開いた。


「まだわかんねぇことがある。」

ギラギラとした目は私を見ていた。




「てめぇの正体だ」

「!」

下を向いていた綱吉も顔を上げる。
リボーンが「さっきから気になってはいたが、そいつは誰だ?」と山本に訊く、
山本は、「わかんねぇが、ツナと同じ死ぬ気の炎を出すことができる」と答えた。

空気は一気に緊迫する。

私は、とりあえず、


「この鎖、はずしてくれないですか?」


身振り手振りはしないかもしれないけれど、気分的に。



13



「鎖がついてても口はきけんだろ」

という、マフィアな台詞をリボーンから貰い、私は諦めて、話をすることにした。
前置きに、長い話になるのでと言い、綱吉達に椅子に座ってもらう。

前方に綱吉と獄寺、リボーン、後ろに壁に背中を預けた山本。ラルは今は気を失っているため離れたソファに寝ている。
全員揃ったほうが話しやすいのだが、しかたがない。

私を囲んだ最高警戒レベルで、私の話は始まった。


***


「まず、話の始めに、私が未来の“沢田綱吉”の棺桶に入っていたのは私の意志ではなく、
 並びに、私はボンゴレの敵ではないということを言っておきます。」



そう、あれは事故だった。

しかし、もしかしらあれは、




「では本題を


  

  私の名前は“沢田綱吉”巨大マフィア組織“ボンゴレファミリー”第十代目、ボス、兼、独立暗殺部隊ヴァリアーの直属の上司です。」




2回目の神様の気まぐれだったのかもしれない。




***




その台詞を言った瞬間のそれぞれの反応は凄まじいものだった。

まず獄寺。

怒りを露にし、その手にはもうダイナマイトが握られている。
しかし、彼にしたらそのダイナマイトを投げてないことのほうが奇跡だろう。
彼唯一のボスを否定するような発言だ。自分のことを言われるよりも、腹が立っただろう。
―――私はそれをよく知っている。

「ふざけんな!」と叫び、立ち上がり、私に向かってギリギリと眉を寄せる。私はそれに困ったように笑うしかできない。
それを見た獄寺は我慢ならず、ところ構わず、ダイナマイトをなげようと振りかぶるも、私の背後から響いた声に止められる。


「やめろよ、獄寺」

静かな声だ。私は振り返ってみるも、やっぱり後悔した。


「口塞いじまったら、言い訳が聞けねぇだろ?」

山本は、目を鋭く光らせながら獄寺に言った。しかし、一時も私から目を離さなかった。
10年で山本の殺気は日本刀の刃のように鋭くなった。
―――それを向けられるのが自分だとしても、どこか誇らしいのは、本当に困ってしまうものだ。

緊張状態のまま、次に口を開いたのが、リボーンだった。


「だったら、その殺気をしまえ、山本。獄寺もだ。」

そう言いながらも、レオンが銃の形をとっている。
―――知っている。その銃は僅かな刹那で火を吹いて、私を何度も助けたのだ。


私は殺気の渦のなかで、名指しで喧嘩を売られたも同然な少年を見る。
綱吉は顔を青くして私を見つめていた。その唇が音を出さずに呟いた。



どうして?


やっぱり私は困ったように笑うしか出来なかった。





14





「もちろん、そこにいる“沢田綱吉”が偽者と言っているわけじゃない。」


「ああ?わけわかんねぇこと言って10代目を惑わせる気か?」

「多宇宙解釈っていうのがある。」


未来は選択と、もし、で枝分れ、その先には沢山の未来があり、そこから先も沢山枝分かれしていく。


「量子力学だな」

リボーンが言った。私は頷く。

「私は“沢田綱吉”のもしもの存在。えだ分かれた、隣り合う世界の一人。」


それが、10年バズーカーによって私の未来ではない、此方の世界の10年後に来てしまった。


「そういうことだと私は解釈してる。」

「なんで、自分の未来じゃない、ってそう思うんだ?」

「私は女だから。」


いくらなんでも、将来男になることはないと思うし。


「なるほどな」

「ちょっとまってくださいよ!リボーンさん!」

獄寺が喚いた。


「正直、わけわかんねぇっス」

「オレも」

「お、オレも」

リボーン以外の男三人が手を挙げた。

リボーンはいつの間にか姿がカメレオンに戻ったレオンをボールに変えて綱吉に投げつけた。

「当事者なんだからしっかりしやがれ」

「わかるかよ!!」

まっこう否定されてしまった。
私は少し考えて、こう、切り出した。


「例えば、朝、学校に行く道が左右、二つあるとする。
 今日、貴方は右の道を選んで登校した。これが選択。その後、何事もなく学校についた。ここまではいい?」

「えと、うん」

「でも、もし、左の道を選んでいたら、貴方の好きな人と偶然居合わせて、一緒に登校できたかもしれない。っていうのが、もし。」

「え、じゃあ、左の道がよかったな…」

「だよね。でも、一回してしまった選択は、戻ってやり直しがきかないんだ。この場合学校に遅刻しちゃうし、時間は戻らないから」

綱吉は、学校を遅刻した場合、雲雀にかみ殺されるな、と顔を青くした。

「それに、もし、っていうのはもしだから、本当は予想はつかない。好きな子と一緒に登校は出来ても、
 そのとき犬に追い回されて、恥じをかくっていうパターンもある」

綱吉は内心ありそう。と思った。

「で、この話に私を当てはめると、左の道を選んで、好きな子と一緒に登校している途中の君のところに、
 右を選んで歩いていたはずの君である存在の私が、なぜか急に現れたって感じ。」


「急に」


「そう、本来、選択をした時点で逢うはずがないのに、なぜか…急に。」


「で、でも、君とオレ、全然違う…けど」

「そうだね。隣り合った世界って言ったけど、私と君の距離は相当遠いと思うよ。道で言うなら、正反対だろうね。
 君は、“沢田奈々”と“沢田家光”の間に産まれた存在が“もし、男だったら、の存在”
 私は“もし、女だったら、の存在”そこからすでに違い始める。
 君から見れば、私は、“沢田綱吉”という存在の立場に入れ替わった他人というのが一番しっくりくると思うよ。」


「あ、え…うん…」

たいぶ脳内がつらそうだ。私は苦笑い。
なんとか物事を飲み込もうと必死な綱吉を見てから、その隣の獄寺へと視線を向けると彼は、私を気味悪そうに睨んでいた。
そりゃそうだ。そして、むかいに座っているリボーンを見て、後ろの山本を見る。
山本はさきほどまでの険は抜け、私をまじまじと見ていた。
獄寺のような反応にも困るけれど、山本の反応にも対外困る。まぁ、山本らしいけど。

「うん、なんとなくなけど、わかった気がする」

「いや、まだだぞ」

頷いた綱吉の声にかぶせるようにリボーンが言った。

「お前、なんでそんなに落ち着いてるんだ?」


さて、ここからが本当の正念場だ。



15


「お前の仮説をもとに考えると、お前は今の時代から10年前、ツナと同い年の存在だな。」

「そうだね。」

「だが、落ち着きすぎじゃねぇか?」

綱吉達は首を傾げる。自分の立場を一人知っていたからこそ彼女は落ち着いていたのでは?と考えていると
心読んだリボーンが「違げぇぞ」と言った。

「そんなわけねぇんだ。本当なら、コイツが一番慌てるはずの人間だぞ」

彼女は笑っている。

やっぱりリボーンは流石だ、と思いながら。


***

「考えてみろ、10年後に着たと思ったら、自分のほかにボスを名乗るやつがいるんだぞ?
 しかも、その言いようじゃあ、ツナ以外のファミリーのメンツは同じなんだろ?」

「そうだね。」

「なら、なんで、自分のファミリーに、自分を知らないと言われて平然としてやがるんだ?なぜツナを偽者だと糾弾しなかった?」


リボーンは私をジッと見つめた。その言葉でやっと気づいた二人はハッとする。
この様子だと、後ろの山本もそうだろう。


「隣り合わせのそっくりな世界に自分が侵入しちまった、なんて仮説は、
 自分がその世界に入っちまった自覚がある者だけがたてられる仮説だ」


それが出来るのは、



「もともと、この世界の存在を知っていた者だけだ」




「そうだね」


「どういうことか、しっかり話しやがれ」





16





「私は、異質中も異質な、“もし”の存在なんだよ。」



まず、私の記憶は“”として始まる。
そこはいたって普通の日本であり、マフィアもなにも関係のない、田舎にちかい町だった。


「え、“”?」

「そう、“”」


”は普通の少女だった。特に秀でたところもなく、劣ったところもなく、普通の両親のもとで普通の生活をしていた。
”は物語が好きだった。だから、小説、絵本、漫画に映画、そしてアニメまでこよなく愛した。

その“”は1つの物語が大好きだった。


「それがこの世界」

「え?」

”はその物語が大好きで、何度も何度も読んで、その世界の続きを楽しみにしてた。けれど、


「物語が終わる前に、“”は死んでしまった」

どうやって死んでしまったか、は省略しよう。ここは別に話に関係ないのだ。
”は悲しくて悲しくて、死んだというのに、まだ悲しかった。

そして、気がついたときには、


「私は赤ん坊で、名前は“沢田綱吉”だった。体は女だったけどね」


沢田綱吉のなかで“”は考える。
あの世界はとっても大好きだったけれど、同じくらいとっても怖かった。
自分が“沢田綱吉”だと余計に怖かった。


だから、チャンスあった時、全力で、


「未来を変えてやる、と思った。」


それが、全ての私のエトセトラである。



17





「つまり、私は、“もしも、沢田綱吉が、前世に、自分が主人公の物語を途中まで見ていて、
 しかも前世の性別と容姿と記憶+αをもって、生まれでたら”という存在なんだ。」


突拍子もないことを言った自覚はあった。私以外の人間は固まり、物事を噛み砕くのに必死だ。
私の方は、あー言ってしまった!と清々した気分だった。

赤ん坊から14年。長かった。
一つ前の私の世界では口がさけても言えなかったことを全部言ってやった。

すっきりだ。

口から満足気な息が漏れる。大丈夫、私、ココでもやっていけそうだ。



その次の瞬間、部屋のなかは叫び声に包まれた。


***



「なげぇ!」

「オレが主人公!?」

「なんだぁ?そりゃあ?」

「プラスアルファってなんだ?」



四人の反応はそれぞれだ。
私はリボーンに「プラスアルファはまだ内緒」と答え、ほかに質問は?と訊く。今の私は上機嫌だ。


「あ、あの!」

「はい、ツナ」

「(つ、ツナ!?いきなり!?)オレが主人公って…」

「本当だよ。学校からマフィア関係まで、ダメなとこ、かっこいいとこ、ぎっしりと」

「ええええ!?」

「おい!お前!!」

「何?」

「…その本どこに売ってやがる」

「(買う気だー!!?)」

「ここにはないよ。」



「じゃあ、は、未来をある程度知ってるってことだな?」

黙っていたリボーンがぽつりと言った。
私は、少し悩んで、頷いた。

綱吉が「じゃ、じゃあ!」と身を乗り出した。


「この先もどうなるか知ってるの!?」

その顔には期待と不安が入り混じっていた。私はある程度は、と頷いて、けど、次に綱吉が何か言う前に、首を振った。



「でも、教えられない。」

「なんでだよ、てめぇ!」

え、と固まった綱吉に代わって獄寺が噛み付く。けど、


「だって、計算をはやくするためにやる算数ドリルで、答えを見ながら書いたって意味ないでしょう?」


修行は紙と鉛筆から始めると言っていた獄寺は、う、と詰まる。
追い討ちをかけるようにリボーンも、「そうだぞ」と頷いた。

しかし、背後に立っていた山本は、




「そうも言ってられる状態じゃないかもしれねぇ」と壁から背中を離し、此方へと歩いて、私の隣へ立った。




18





「今は少しでも情報が必要だ。未来が分かるというなら、力を貸してほしい。」

真剣な山本の表情に、綱吉は絶句する。やはり、そんなにヤバイ状態なのだ。


山本と対面するように彼女は体の向きをかえ、これまた真剣に彼女も言った。


「協力はする。けど、未来の記憶は言えない。」


山本は怒ったように、けれどどこか泣きそうな表情で彼女を見つめた。
彼女は、真剣な表情を崩し、山本に笑いかけた。綱吉は思わず、目を擦ってしまった。彼女があまりにも大人に見えた。



***


「これはボンゴレにとって必要なことなんだ。確かに未来を知っていれば、それに対応した対策を十分にとることができる。
 けど、私の知っている未来が変わったら?確信を揺るがす、急激な変化は人間の冷静な判断を鈍らせる。
 疑心は確かに迷いに繋がる。けれど、100%の確信も危険だ。」

「けど、何も分からないよりかはいいはずだ。確信しなければいい、参考程度にとどめて挑めば、それは強力な武器になる」

「確かに。けど、人間二度あることはなんとやら、というだろう?私が話した記憶に沿えば沿うほど、それは参考から確信に傾く。無意識にね。
 思考ととめれば、それは翻弄される人形だ。私は未来を担うボンゴレボスとその右腕に、そんなものになって欲しくはない。」

「……ッ自分が知っている未来が変わり、責任を追求されるのが怖いから言わないんじゃないのか!?」

「怖いよ。それに、それはツナが歩んだ道だから私が来たことで変わってしまうのは嫌だっていう自己満足もある。
 けど、それが理由じゃない。良い変化ならどんどん変わって欲しいし、人が死んだりしたら悲しい。」

「だったら!」

「しかし!それと、未来のできごとを話すというのはイコールではない!」


「おい、

何時の間にやら、怒鳴りあいになってしまった私達に待ったをかけたのはリボーンだった。

山本と私は、ハッとして、綱吉と獄寺を見る。二人は此方を呆然と見ていた。急激に情けなさが溢れる。
自分は子供になんていう顔をさせてるんだ。


「ごめん、」

「悪ぃな、熱くなっちまった」


、お前、自分のことを、ボンゴレの10代目ボスって名乗ったよな?」

「え、うん」

「候補、じゃねぇのか?」

「うん、この前、襲名したよ。まだまだ仕事は9代目まかせだけど、私はボンゴレのボスだ。」

視界の端でビクリとツナが跳ねたのが見えた。

「あと、ヴァリアーがどうとか言ってたよな?」

「ヴァリアーは9代目直属だったけど、いろいろあって私直属なった。けど、何?」

リボーンはニヤリと笑ってみせる。

「いろいろ変えたんだな。」


「―――――うん、ゆっくり、ゆっくりだけど、」

「後悔してんのか?」

「どうだろ、力は尽くしたよ。……リボーン」

「ん?」

「さすが。」

「当たり前だ。」


そうだ、変えたくないって言ったって、私が居る時点でもう、それはあの原作じゃないっていうのは、前にも経験したことだった。
すっかり忘れてた。


「山本、」

「ん?」

「やっぱり未来の記憶は話せない。話したくない。ツナには色々なことを考えて欲しい。
 これからツナはきっといろんなことに巻き込まれていくと思うから。

 私は未来の記憶を持って産まれて、自分が未来から外れるのが怖かった。なにかツナと違うことをしてないかビクビクしてた。
 けど、私にはチャンスがあったから、開き直って自分の未来を作っていくことを尽力できた。
 そして、やっと生きてるって感じがしたんだ。
 ツナには生きて欲しい。」

「…そっか」

「うん。けど、私も手を出させて貰うよ。世界は違えど、ボンゴレは私のファミリーだ。
 私のファミリーに手を出そうっていう輩を黙ってみてられない。」

「ハハッ心強いのな!」

「だから、余計なこと言ってごめんね…それから、ツナ」

「え!?」

「ツナはツナの道を歩いてほしい。

 私は産まれる前からのズルがあるんだ。あと、一度死んだっていう経験も。
 それから、身体年齢は一緒でも精神年齢は違う。
 だから、ツナはツナ。いろいろ考えて、自分が歩みたい道を進んでほしい。」

「……でも…」

「大丈夫。ツナの不安は全部っていうわけじゃないけど、直ぐに解決するよ」

「!」

「おい、言わないんじゃなかったのか?」

「これだけ。ツナは私の名前を訊いてくれたから特別サービス」

「あ、ありがとう!」

「ううん、だってずっと話したくて、話せなかった大好きな話のヒーローだからね!」



19





赤くなってしまった綱吉を見つつ、笑っていると、綱吉の隣に座っていた獄寺の視線に気がついた。
そして、目があった瞬間に、低い声で「おい、」と私に言う。


「オレはまだ認めねぇぞ、」


綱吉が「ご、獄寺くん」と呟いて、山本が「なんだよ獄寺?」とたしなめるような困った笑い方をする。
それを見た獄寺は立ち上がり、


「うるせぇ!大体、話ばっかりで証拠なんか1つもないだろうが!」

獄寺の言い分ももっともだ。証拠ななるだろう記憶はこれから私は一切喋らないことを決めてしまったのだから。
けど、

「いいよ、信じられないのなら、信じないでも。君のボスはツナでしょ?」

「そうだ!てめぇなんざ10代目の足元にもおよばねぇ!ボンゴレボスなんかてめぇに勤まるはずがねぇ!」


さすがにそこまで言われるとカチンとなる。

内心、このツナバカが、と思っていると、リボーンが「それはダメだぞ」と私に言った。


「これからも、一緒に戦うんだから、信頼は重要だ。なんか未来に影響のなさそうなことで獄寺を納得させる内容ってないのか?」

「影響のなさそうな…か」

「ああ、けど重要なやつな」


難しいな、と考えて獄寺の顔をちらっと見ると、言えないだろう、と高を括った顔をしていた。
なんか、普段が普段なだけに、ムカツクな。
(もとの世界ではすっぽりと私がツナ立場で十代目ー十代目ーって言われてる)新鮮だけど。


ああ、1つ思い出した。けど、


「大分、私が不躾になりそうであれなんだが、」

「言ってみろ」


リボーンはまる投げだ。


「ハッどうせ、“貴方の姉はなくなっていませんね”とかだろ!」

「詳しいなぁ獄寺くん」


それ、どっちにでもとれるってやつだろ。
でも、姉ってとこがちょっとひっかかった私はちょっとお灸を据える意味も込めて、言うことにした。


「高いソの音」

「あ?そりゃ、どういう……意味…」

「外れてる」

「……ッてっめぇ!」


私に掴みかかろうとした獄寺にギョッとした綱吉が、獄寺を止めようとして、
獄寺の無意識のひじうちを食らってソファにノックダウンする。

それに気づかないで、こちらに来た獄寺を山本が抱え込んで止める。
あまりの獄寺の豹変に、リボーンが呆れたように言う。

「何言ったんだ」

「ちょっとね。」

ここの獄寺とは打ち解けられそうにないかも、と思いながら私は、死ぬ気の炎を額に灯した。

集中して、手首の周辺に炎を集める。そして、ずっと私の腕を拘束していた鎖を溶かして落とす。
凝り固まった肩を解して、リボーンを抜かし暴れる獄寺を止めるために一塊となった男達に笑いかける。


首にかけていたチェーンを引っ張り出して、金具からリングを外し、指にはめ、特殊なカバーを外し、炎を灯す。
そのころには、この場にいる全員がリングに注目し、動きを止めていた。



「そ、それは…ッ」


痛む鼻を押さえた綱吉が、声を上げ、ポケット漁って、私と同じリングを取り出す。そう、これはボンゴレボスの証。


「大空のボンゴレリング!」


私は炎を灯したリングを指につけ、その手を自らの胸の上に置き、この世界のボンゴレ10代目に宣誓をする。



「この世界の大空が未来に輝かんことを、 
 
 大空を守る守護者に幸あらんことを、

 今は大気に溶け、見えない虹に復活を、
 
 そして異世界の空である、この私が、
 
 この世界の大空の一部を貸して頂くことに感謝を。」





















デウス X マキ―ナ





この後すったもんだで主人公が活躍して、死ぬはずだったキャラとかを救済して回り、
いろいろ会うはずのないキャラを合わせて、楽しもうっていうのが書いた理由なのに、その前に力尽き。

タイトルの読み方はデウス エクス マキ―ナ。意味は、機械仕掛けの神。
演出技法一つで、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、 いきなり絶対的な力を持つ神が現れ、混乱した状況に解決を下して物語を収束させるという手法のこと。 (ウィキペディアより)
それと、エクス→ X で10代目ってことで。(因みに同タイトルの漫画とは無関係です)