―――――??―――――

―――――アレハ一体ナンナノデショウ?―――――

―――――ワカリマセン、ワカリマセン、ワカリマセン、―――――

―――――情報ガ不足シテイマス。――――― 

―――――??―――――




知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ
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知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ知リタイ
















知リタイ!





















まだ、時刻が夕方だった頃、そのメールは携帯に送られてきた。





は蝶ネクタイの持ち主を探して町を駆けずり回り、世界に誇る日本の都心の 人口密度に音を上げそうになっていた・・・ちょうどその頃のことだった。











『今夜11時、池袋、60階通り、ハンズ前にて。集会を行う』







は携帯を覗き見て、目を丸くした―――――――ダラーズが動く。

当時、自分の兄に誘われてネットで登録したダラーズという集団。 名前の意味はなんとも適当な「だらだらする」から取られているらしい。 今まで登録したといっても名前を体言するかのごとくなんの動きもなかった集団が、 突如、集会を今夜行うという。しかも、ここ池袋で。


(・・・・・・。)


散々歩いてパンパンになった足を休めるために、適当な路地の壁にもたれ掛かって、汗で張り付く前髪を分け、は考える。


(どうしようか?)


すると、頭のなかが突如騒がしくなる。


(行くの?)(珍しい)(どうしたの?)(補導されちゃうよ)(退学になっちゃうかもよ?)(でも面白そう)
(そんな深夜に家から出るなんて不良娘)(どうして行きたいの?)
(珍しいね)(本当に)(天変地異?)(ノストラダムスだね!)(古い)(すごく)(地球終了のお知らせ?)
(いや、槍だろ)(雨!雨!)(失礼な)(でも本当に・・・)

(・・・珍しい)


その通りだ。珍しい。

こんな誰が送ってきたのかもわからない、メンバーにだって誰も知り合いが居ないだろう、怪しい集まりに誘われて、 「どうしようか?」なんて改めて頭のなかで協議するなんて、怖がりな彼女にはありえない。 いつもだったら文章を読み終わり数秒で、携帯をしまって、自分には関係無いことだと無視をする。

それが正しい。それが正解。
それは、分かっているものの、どこか今の自分は浮ついている。その自覚もある。

その原因も、理由も、事柄も、カテゴライズも、分かっている自分が確かに居るが・・・ダメだ。



一番冷静な自分は昨日壊れてしまった。





は一回家に帰り、制服から私服に着替え、気休めに帽子を深く被った。
あとは、蝶ネクタイの持ち主を探して、時間が過ぎて、夜になるのを待つ。


彼女はビクビクしながら、(それこそ、ハンズ前からどうやって逃げれば安全かを思考するほど)
―――――ダラーズの集会に参加することを決めた。



獣は壊れたままなのだ。





***








大きく重い物が地面に設置してある → 次の瞬間凄い勢いで空を飛ぶ =    ?              









どうしようもなく分からない式の答えを、は昨日の帰りに見た。

けれど、イコールの向こう側にその答えを書くには戸惑ったままだ。
「1+1=田んぼの田」なんて答えじゃ、流石に書けないだろう。 もし、カンニングした答えだとしても、これは無い。無理。書けない。


しかし、いくら拒否しようとも、目の前の答えは変わらないのだし、根性でねじ伏せて、2と書いても、 丸付けのとき、ワークの答えに従うのなら、×を付け、田んぼの田なんて、ふざけた文字を赤ペンで書かなくてはならない。


まぁ、結局何を言いたいのかと言うと、










自動販売機が空を飛んだのだ。人の手によって。
 







「!!??」





人生の内、飛行機が飛んでいる姿を何回見るのだろう。と現実逃避を計ろうとしても無駄だ。
コンビニで弁当を買って店から出たときに、はレシートを捨てようとしていつもあるそこにゴミ箱がないことに気づいた。
首を傾げて再び自宅を目指そうと振り返ったところで、ソレを見た。


赤い四角いフォルムのソレは、まるでミサイルのように、池袋の空を飛んでいく。

ざわざわと産毛が逆立つような空を切る静かな音のあと、次の瞬間、アスファルドを削るような凄まじい勢いで自動販売機は着地する。 予想以上に綺麗にたったまま着地したのが不思議だったが、その自動販売機の陰から大きな人影が現れたことで、なんでか分かった。

空を飛んだ自動販売機は、あの大きな黒人の人が受け止めて、倒れないように着地させたのだ。





「!!??」



自分の冷静な部分が、そう分析するが、自分の大多数が理解しようとしていない。

当たり前だ。

自動販売機が空を飛ぶという時点で信じられないのに、それを受け止める人間がいるだなんて、誰が信じるだろう。
―――いや、それでもまだ、の分析は甘く、次に自動販売機を受け止めた人間に殴りかかった男の言葉に、愕然とした。


「邪魔するな!」


―――邪魔?なんの邪魔だろう?

――――まさか、まさかね。


しかし、彼女の誇る“冷静な獣”はそんな少ない言葉から現状を正確に理解しようとする。
というより、理解するに終えなかった。自動販売機を受け止めたバーテン服の人物に殴りかかった男は、 受け止められた拳を一回収めると、くるりと背中を見せて、 ―――ここで数人は、この暴動が収まったと思い、ホッとした。のなかでも何割かはそう思った。―――― そのバーテン服の男は、自動販売機がもともとあったのだろう、ぽっかりと空いたスペース、の隣、

もう1つの自動販売機を、持ち上げた。



「・・・・。」


なかなか事実を受け止められない、というのは、彼女にとって始めての経験だった。
冷静な獣は口をあんぐりと開き、彼女の頭は今までにないザワメキに包まれる。


(まさか)(あれはハリボテ?)(もしかしたら)(けど、さっきのあれは重そうだったよ)(嘘)(そんなわけは)
(まるで砲丸投げの選手みたい)(馬鹿)(あれは自動販売機)(たしか600キロくらいあるって)(嘘)
(偽物)(誰?)(あれは)(人?)(わからない)(わからない)(わからない)(あれは何?)
(情報が無い)(何?)(わからない)(あれは)(あれは)(あれは)


(ああ)


(―――投げる!)



男は持ち上げた自動販売機は怒声と共に、ぶん投げる。
信じられないことに、そんな物を持ち上げた男の腕は一般人の腕とそうかわりないように見えた。
大きな四角の物体は、そんな細い腕から伝わる力に翻弄され、しなるように動いた男の腕に従い、何もない空間へと押し出された。 それは、空間を切る。切って切って、前へと進んでいく。灰色の地面に人口的な四角いフォルムの影を落として。

彼女の頭は完全に思考を止め、その光景に圧倒された。
ただ一人、冷静な獣ではない、幼げな彼女の一人が呟いた。

「凄い!」

小さい子供が、花火を見て歓声をあげるように、ただ純粋なその声はの喉を伝って外へと飛び出た。
その声は長い飛行経て落ちる自動販売機の轟音にかっ消されたが、彼女はそんなこと気にしなかった。


凄い!凄い!凄い!

なんだろうあれ!だれなんだろう!



しりたい。



知りたい!知りたい!知りたい!


立ちすくんでいたの足はその思いに駆られるようにフラフラと歩き出す。

麻痺していた冷静な獣はそれを止めようと叫んだ。


(向こうは危ない!止まろうね!!)


けれど、彼女は止まらない。




(止まって!怪我するよ!)

なにを言ってるんだ。



((((( 歩いているのは しりたいのは私だ))))))


ゴボリ。

この時、の頭の中の沢山の泡が1つになり、大きな泡が生まれた。まるで大きな空洞のように。
冷静な獣は泡に飲まれ、目を白黒されて、不意に理解した。




(――――うん、)




冷静な獣は壊れた。
利益と損害の比重は逆転し、獣は冷静で無くなった。傷を負って熱が出るように。酒を飲んで酔うように。




だが、フラフラと歩き出した彼女の歩みは遅く、自動販売機をぶん投げたバーテン服の男はその後、


「待てぇやぁああ!臨也ぁあああ!」


という叫びを残して、走り去り、自動販売機を片付けていた黒人の男もそれを追いかけ、


「シーズーオー!喧嘩ヨクナイヨー!」と、舞台の幕引きのようにさっそうと姿を消した。




そして、片手にハンズの紙袋とコンビニの袋。片手にトイレットペーパーという奇妙な出で立ちのまま、 人混みから抜け出てフラフラと奇妙な現場の真ん中に出てきてしまっていた彼女は、我に返る。


(あれ・・・?)


だんだんと、いつものように動き出す人の流れのなか、は、自分に突き刺さる怪訝そうな視線を自覚する。
あのバーテン服の男に向かって無意識に、伸ばしていたトイレットペーパーの袋を手首に垂らした手を引っ込め、 湧き上がってくる羞恥心に頭をフルスピードで回転される。


(何してるんだろう自分は!)


フラフラと人混みのから飛び出て、現場に飛び込んだのは出来事の最後の最後といっても、彼女の姿は目立っていた。
学生服、しかも両手に荷物。その上片方はトイレットペーパー。そして、その手は“平和島静雄”に向かっていた?


必然的に回りの人々が思ったことは、「この騒ぎの関係者?」で、係わり合いになりたくないけど、気になる人物に 彼女はカテゴライズされ、それ故、四方八方からは容赦のない視線の雨あられだった。


(ひぃいいいいいい!)

日直で黒板に自分の名前が書かれるってだけで、落ち着かなくなる彼女は、 視線に恐怖して、立ちすくみ、目が合わないように地面に視線を移した。




(自分は、今、石ころです!)(雑草です!)(見ないでください!)
(見てたって面白くないよ!)(一見様お断り!)(百見されても困る!)

そんなことを思いながら。




そして、彼女は俯いた視線のなかに、黒い蝶ネクタイを見つけたのだ。